ウェールズ英語の特徴 (2)

     


Last update January 5, 2025

 独特の文法と表現

文章の作り方にもウェールズ英語ならではの特徴があります。スコットランド英語アイルランド英語の例にももれず、学校で学んだ英文法が当てはまらない場合があるので注意しましょう。以下、ウェールズ英語のユニークな表現についてまとめてみました。

 「今やるよ」は「そのうちやる」の意味?

ウェールズ英語の now も「今すぐ」ではなく「できるだけ早く」程度の意味。つまり、相手が "I'll do it now" と言っても今すぐやってくれるわけではなく、ましてや "I'll do it in a while, now" などと答えられた場合は、当分やってもらえないものと覚悟したほうがよさそうです。

 「再び」は「次の機会」の意味?

もうひとつニュアンスの違う単語が again。たとえば、誰かに借りていたものを返そうとしたら持って来るのを忘れたというときに、「ごめん、持ってくるの忘れたよ」と言うと、"Don't worry. I'll have it from you again" などと答えられたりするようですが、ここで「again」は単に next time の意味になるようです。

 付加疑問文はすべて isn't it?

付加疑問文の本来のルールは、その文章の主語と動詞に沿って、don't you?doesn't he? などとなり、肯定文なら否定形、否定文なら do we?、is it? などと肯定形にしなければならないわけですが、ウェールズ英語では、"Many people love dogs, isn't it?" などとすべて isn't it? で統一できるようです。

 倒置法がよく使われる

一般的な英語では "I am tired" などとその部分を強く発音することで強調しまが、ウェールズ英語では、主語と述語を倒置させて "Tired, I am""Beautiful, the flower is" といった詩的な表現がよくみられます。これは、動詞が主語の後ではなく主語の前に来るというウェールズ語の語順に影響を受けています。

 その他の特徴

その他、ウェールズ語の影響で、"Saw him going" などと文章の主語を省いたり、"How strange he is!" といった感嘆文で how の代わりに there を使う、あるいは、"Look you, the sheep are loose" など、文章の最初に look youmind you を持ってくるといった独特の特徴がみられます。

 独特の語彙

ウェールズ英語の語彙には、ウェールズ語から借用したもの、ウェールズ語を語源として英語になり一般的に使われている単語もあります。ちなみに、南極などに住んでいる可愛い動物 penguin ですが、その語源はウェールズ語だという説があります。また、ウェールズ語源の単語については、同じくケルト語の一派であるアイルランド語やスコットランドのゲール語にも同様の単語が存在するものもあります。

以下、ウェールズ英語の語彙をいくつかご紹介しましょう。

単語 意味 備考
bach 小さい、少ない ウェールズ語からの借用
bard 吟遊詩人 もともとはケルト族の楽人の意味で、ウェールズ語の bardd、あるいはアイルランド語・スコットランドゲール語の bard が語源
cawl ウェールズのスープ ウェールズの伝統的なスープまたはシチューを指す。ウェールズ語からの借用
coracle コラクル(かご舟) アイルランドやウェールズの川・湖で用いる枝編み細工の枠に皮などを張った一人乗りの小船。ウェールズ語の cwrwgl、アイルランド語・スコットランドゲール語の currach が語源
corgi 犬の品種名 ウェルシュ・コーギー。ウェールズ語の cor 「小さい」+ gi 「犬」
cwm ウェールズ語から古英語には cumb として借入
crag 険しい岩山 ウェールズ語の craig、スコットランドゲール語の creagh が語源
cromlech クロムレック ドルメン、塚を取り巻く巨大な環状列石。ウェールズ語の crom 「アーチ状の」+ llech 「石」から
eisteddfod ウェールズの祭の名前 毎年行われる詩人や音楽家などが腕を競う祭。ウェールズ語からの借用
flummery フラメリー ミルク、卵、小麦粉で作るやわらかいデザートの一種。ウェールズ語の llymru 「酸味のあるオートミールで作ったやわらかいゼリー」から
nain 祖母 ウェールズ語からの借用
penguin ペンギン ウェールズ語の pen gwynpen 「頭」 + gwyn 「白い」)が語源だとする説があり、もともとは絶滅種である great auk という飛べない鳥を指した
taid 祖父 ウェールズ語からの借用
wrasse ベラ(魚の一種) 主に熱帯地域の海に生息する色鮮やかな魚の名前。ウェールズ語の gwrach 「老婆、鬼婆」 が語源