アイルランド英語の特徴 (1)

       


Last update January 4, 2025

 歴史的な背景

Hiberno-English とも呼ばれるアイルランド英語の直接のルーツは、16世紀から17世紀にかけて行われた英国による植民がきっかけです。

もちろん、地理的に近いことから12世紀にも英語との接触がありました。このころの英語は区分的には中英語ですが、初期のころの中英語なので、ほとんど古英語に近いと言っていいでしょう。その英語から、Yola dialectFingallian と呼ばれる古いアイルランド英語に発展しますが、一部の地域の方言の域を出ることはありませんでした。英語よりもケルト系言語であるアイルランド語(ゲール語:Goidelic or Gaelic language)が優勢になっていったからです。

その後、16世紀になって、再び英語が取り入れられるようになります。この時代の英語は中英語ですが、古英語とはかなり異なった言語になっていました。これが現代のアイルランド英語のベースとなり、古いタイプの Yola dialectFingallian は、19世紀になると完全に消滅してしまいます。

この点、同じく16世紀以前に古英語との接触があり、古英語がスコットランド語として発展したのとはかなり対照的だと言えます。

 独特のアクセント

さて、スコットランド英語同様、ちょっとクセのあるアイルランド英語ですが、そのひとつはやはり「訛(なま)っている」アクセントです。アイルランド英語っぽく話すためのポイントは「口先」で話すことだといった意見もあるようですが、母音を弱く発音し子音を強調すると同時に「r」の音もすべてしっかり発音するのも特徴です。

たとえば、How are you? が「ハ・ウェア・ヤ?」となり、語尾の「g」は落ちる傾向があるので、talkingmorning も「トーキン」、「モーニン」となります。「th」の発音もすべてタ行とダ行の音で発音される傾向があり、thinkthis はそれぞれ「ティンク」、「ディス」、thanktank も「タンク」、thanDan も「ダン」となり、母音も訛って「アイ」の発音が「オイ」のように聞こえることもあり、「アイルランド」は「オイルランド」などということに…。(実際の発音については、アイルランド英語の発音をご覧ください。)

 独自の文法

発音だけでなく、文章の作り方にもアイルランド英語ならではの特徴があります。スコットランド英語と同じような表現もあり、日本の学校で学んだ英文法が当てはまらない場合があります。以下、アイルランド英語の文法の違いについてまとめてみました。

 yesno で答えない

質問の答えに yesno を使いません。たとえば、"Are you coming?" と聞かれれば "I'm coming" あるいは "I'm not coming" と答え、yesno を使わないのが特徴です。

 be 動詞と前置詞 after 完了形を表す

スコットランド英語も同じですが、ゲール語の影響で、「have + 過去分詞」で表す「完了形」は「be 動詞+ after-ing 形」で表現する傾向があります。"He has gone" 「彼は行ってしまった」は、"He is after going" つまり「行った後」というわけで、"I'm after eating""I'm after telling you" などとなります。変形として、"I have eaten my lunch" の代わりに "I have my lunch eaten" という言い方もあります。

 have の使い方が違う

次ページで紹介している "Do you have English?" もそうですが、アイルランド英語では have の使い方が異なります。アイルランド語には英語の have に相当する動詞がないことが原因かもしれません。また、所有を表す場合、英語の with に相当する前置詞と me のような所有代名詞で表現するという特徴もあります。たとえば、"Do you have the book?" と尋ねられたら "I have it with me" と答えます。さらに、「彼は酔っ払っている」というときは "He is drunk" と言うのではなく、"He has the drink taken" と言うのがアイルランド風のようです。

 再帰代名詞で尊敬を表す

himselfherself など「~自身」という意味の再帰代名詞ですが、アイルランド英語では尊敬や権威のニュアンスが加わり「上司」や「一家の主」などを指す場合にも使われます。たとえば、"Tis himself that's coming" と言うと、そのエライ彼がじきじきに来るというわけです。ところが、"Myself and Tommy went..." といった表現もよくみられます。これは、自分への敬称ではなく、アイルランド語の影響で普通名詞のように使われることも多いからなのだそうです。

 古い英語の名残り

スコットランド英語などでもみられる you の意味の古語 ye はもちろん、その複数形の yous、また it is を省略した tis、「学校などをさぼる」という意味の mitchthing を意味する yoke など、古い英語の単語や表現も残っています。


参考

ここはひとつアイルランド人っぽくしゃべってみたいという方は、下記のサイトをチェックしてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=W2PHch4IPPQ
https://www.wikihow.com/Speak-With-an-Irish-Accent