子音の変化について (4)
Last update December 26, 2024
地域差に表れる子音の変化 (4)
/t/
や
/d/
の母音間歯茎はじき音化 (
Intervocalic alveolar flapping
)
/t/
や
/d/
の音を歯茎はじき音として発音する傾向で、アメリカ英語やカナダ英語、オーストラリア英語にみられます。詳しくは、
アメリカ英語の発音「母音間歯茎はじき音」
の説明をご覧ください。
th
の非口腔音化 (
Th-debuccalization
)
スコットランド英語特有の傾向で、語頭や母音にはさまれた
/θ/
の発音が、無声歯摩擦音から無声声門摩擦音である
/h/
に変化することを言います。
th
の前面化 (
Th-fronting
)
th
のスペルで表される
/θ/
や
/ð/
の発音は舌先と歯の摩擦による発音ですが、これをそれぞれ
/f/
や
/v/
のように発音する傾向を言います。その結果、
three
は
free
となり、
bathe
が
bave
のように聞こえます。イギリスのコックニー英語やエスチュアリ英語、ウェスト・カントリー英語の一部、そしてアフリカ系アメリカ人の方言にもみられます。
th
の閉鎖音化 (
Th-stopping
)
th
のスペルで表される
/θ/
や
/ð/
の発音は舌先と歯の摩擦による発音ですが、これを歯や歯茎の裏側で止めるように閉鎖音として出します。そのため、これらの音がそれぞれ
/t/
や /d/ に近い音になり、
thank you
が「タンキュー」、
brother
が「ブラダー」のように聞えます(
/t/
や
/d/
になるのではありません)。アイルランド英語やニューヨーク英語の一部、あるいはインド英語にもこの傾向がみられます。また、カリブ諸島やナイジェリアやリベリアの英語では、
/t/
や
/d/
と全く同一に発音されます。
th
の歯茎摩擦音化 (
Th-alveolarization
)
舌先と歯の摩擦による発音である
/θ/
や
/ð/
の発音をそれぞれ
/z/
や
/s/
で発音する現象のことです。アフリカの英語やフランス語やドイツ語を母国語とする人たちの英語にもみられますが、
th
の発音は英語以外の言語ではあまり存在しないことが原因のようです。
vest
と
west
の同化 (
Vest–west merger
)
ホンコン英語にみられる特徴で、語頭にくる
/v/
と
/w/
がいずれも
/w/
で発音される現象を言います。また、
/v/
が語頭以外の位置にくる場合は、語によって
/f/
か
/w/
に変化します。例として、
even、leaving、rover
では
/f/
になり、
advice、event、revoke
では
/w/
になるようです。
wine
と
whine
の同化 (
Wine–whine merger
)
たとえば、英和辞典で
which
を引くと、発音の欄に
/(h)wɪʧ/
と括弧書きで「
h
」が表記されていたりしますが、
/hw/
の音が
/w/
に省略される特徴を言います。その結果、
wine
と
whine
、
weather
と
whether
、
wear
と
where
、
witch
と
which
などがそれぞれ同じ発音になります。イングランドをはじめウェールズやオーストラリア、ニュージーランド、アメリカやカナダの大部分でもこの傾向が一般的ですが、スコットランドやアイルランド、そして一部のアメリカ、カナダの英語では、この傾向はみられません。イングランドでも18世紀までは容認されませんでしたが、現在では少数の話者を除いて
RP
でも2つの発音が同化しています。
wing
と
ring
の同化 (
Wing–ring merger
)
ホンコン英語にみられる特徴で、語頭にくる
/w/
と
/r/
がいずれも
/w/
で発音されるため、
wing
と
ring
などが同音になります。
zip
と
gyp
の同化 (
Zip–gyp merger
)
インド英語にみられる特徴で、
/z/
と
/ʤ/
が区別されないため、
zip
と
gyp
がともに
/ʤɪp/
と発音され、
raze
が
rage
のように聞こえます。