子音の変化について (3)
Last update December 26, 2024
地域差に表れる子音の変化 (3)
rip
と
lip
の同化 (
Rip–lip merger
)
シンガポール英語にみられる傾向で、
/r/
と
/l/
が区別されないため、
rip
と
lip
が同音になります。
s
子音群 の音位転換 (
S-cluster metathesis
)
アフリカ系アメリカ英語にみられる現象で、
-sp
など
/s/
ではじまる子音群からなる語尾において、子音の位置が入れ替わってしまうことを言います。その結果、
ask
が
/æks/
、
grasp
が
/ɡræps/
となります。それ以外にも、
ask
がジャマイカ英語で
/a:ks/
となり、ロンドン方言の
/ɑ:ks/
として逆輸入されています。こういった例は古英語にもみられ、当時は許容されていたようです。
seal
と
zeal
の同化 (
Seal–zeal merger
)
ホンコン英語にみられる特徴で、
/s/
と
/z/
がいずれも
/s/
で発音されるため、
seal
と
zeal
、
racing
と
razing
はそれぞれ同じ音になります。
scream
と
stream
の同化 (
Scream–stream merger
)
一部のアフリカ系アメリカ英語にみられる現象で、
/str/
と
/skr/
がいずれも
/skr/
として発音されるため、
scream
と
stream
が同音になります。
ship
と
chip
の同化 (
Ship–chip merger
)
/ʃ/
と
/ʧ/
を区別しないため
ship
と
chip
が同音となる特徴で、南アフリカのズールー語話者の英語やアメリカのメキシコ系英語にみられます。
sip
と
ship
の同化 (
Sip–ship merger
)
アジアやアフリカの英語にみられる現象で、
/ʃ/
と
/s/
の発音を区別しないため、
sip
と
ship
、
sue
と
shoe
がそれぞれ同音になります。
singer
と
finger
の分裂 (
Singer–finger split
)
Ng-coalescence
(
Ng
の合体)とも呼ばれ、
/ŋ/
の後に続く語尾の
/ɡ/
は発音しないという16世紀末に起こった変化にともない、
singer
と
finger
が韻を踏まなくなった現象を言います。ほとんどの英語においてみられる傾向ですが、イングランド北部やミッドランドなどの地域やアメリカのニューヨークの英語などではみられません。また、スコットランド西部やウルスターの英語の一部では、この変化が語尾の
/ɡ/
以外にも広がり、すべて
/ŋ/
のみの発音になっている傾向もみられます。
/t/
の声門破裂音化 (
T-glottalization
)
/t/
の音が声門への息の流れを止めるようにして発音される現象を言い、
button
が「ボッン」、
department
が「ディパーッメント」など、その部分だけ音が落ちるように聞こえます。アメリカ英語をはじめ、イギリスのコックニー英語、南部イングランド、最近では
RP
でもその傾向がみられます。
「
t
」の無声歯茎摩擦音化 (
Voiceless alveolar fricative
)
単語の頭に来る場合をのぞいて、
/t/
が破裂音ではなく無声歯茎摩擦音になります。英語ではアイルランド英語の一部をのぞいてほとんど使いません。詳しくは
アイルランド英語の発音「「
t
」の無声歯茎摩擦音化」
をご覧ください。