アイルランド英語の特徴 (2)

     


Last update January 4, 2025

 独特の言い回し

発音やアクセントだけでなく、アイルランド語の影響を受けた言い回しにも特徴があります。久しぶりにアイルランドの友人と会って "What's the story?" と聞かれたら、「最近どう?」という意味です。また、道を歩いていたら知らない人に "Do you have English?" と尋ねられた場合、「英語話せますか?」の意味ですので、アイルランド英語らしく "I have it with me" と答えましょう。

その他、多彩なアイルランド英語の言い回しの例を挙げてみましょう。

特徴 例文 解説
there の代わりに in it Is it yourself that is in it?
「そこにいるのは君か?」
アイルランド語の影響で「そこ」にいるというときの there の代わりに in it を使う。
なんとなく now を付け加える Bye now.
「じゃあね」
There you go now.
「どうぞ(何かを渡すとき)」
Ah now!
「なんたること!」
あえて必要のない now を追加する傾向は、他の国の英語でも用例があるが、アイルランド英語では特に顕著。その他、ウェイターが飲み物を差し出すときなどにも "Now, Sir" というなど、「はい、どうぞ」といった感じで使われる。
so を使ってしっかり強調 I can speak Irish, so I can.
「アイルランド語は話せるよ、もちろん!」
- You are not working hard enough.
「努力が足りないんだよ」
- I am so!
「してるさ!」
その他、"Bye so", "Let's go so", "That's fine so" など、他の英語圏では then を使うところを so で表現。
sure を使って強調したりののしったり… I will go, to be sure.
「当然、行くよ」
Sure Jaysus (Jesus).
「こんちくしょう」
I was only here five minutes ago, sure!
「5分前に着いたばかりだってば!」
なくてもかまわない無意味な sure をつけて強調を表したり、ののしり言葉として使う。
if の代わりに once I will laugh, once your joke is funny.
「ジョークが面白ければ笑うさ」
一般的な英語用法では、once~ というと「いったん~すれば」といった意味になる。
shall の代わりに will Will I make us a cup of coffee?
「コーヒー入れましょうか?」
一般的な英語用法では区別する shallwill の区別がなく、「~しましょうか?」という表現も含めて、すべて will で代用。
to 不定詞の to はしばしば省略 I'm not allowed go out tonight.
「今夜は外出が許されていない」
一般的な英語用法では I'm not allowed to go out tonight となる。
単純な現在形や過去形が仮定法? He asked me would I buy a loaf of bread.
「彼にパンを一斤買ってくれと頼まれた。」
一般的な英語では、He asked me to buy a loaf of bread.
- How do you know him?
- We would have been in school together.

「なぜ彼を知ってるの?」「いっしょに学校に通ったんだ。」
一般的な英語では、We went to school together. となるところを仮定法過去を使って表現。
微妙な bringtake の使い分け Don't forget to bring your umbrella with you when you leave.
「でかけるときは傘を持っていくのを忘れずに。」
一般的な英語では bring でなく take。一般的な英語では、bring は「こちらに持ってくる(連れてくる)」の意味だが、アイルランド英語では「持ってくる(連れてくる)」「持っていく(連れて行く)」の両方の意味で使う。
Someone took my bag when I was having lunch.
「昼食を食べている間にバッグを取られた。」
一般的な英語では、take には「持っていく(連れて行く)」の意味もあるが、アイルランド英語では、「誰かが誰かから何かを取る・受け取る」の意味でしか使わない。
does be/do be で習慣や継続を表す He does be working every day.
「彼は毎日働いている。」
現在も続いている習慣などを表す表現として does (do) + be という構文がある。

 独自の語彙

アイルランド英語特有の語彙には、アイルランド語から借用したもの、アイルランド語を語源として英語になったもの、古・中英語の語彙がそのまま使われているものという大きく3つの種類がありますが、それ以外にも語源の不明なものもあります。

以下、その一部をご紹介しましょう。

単語 意味 備考
Abú 「ばんざい!」、「フレー!」 Bertie abú! 「バーティー、ばんざい!」などのように使う間投詞。アイルランド語からの借用
Acting the maggot バカをやる、ふざける 必要以上にふざけたり、冗談を言ったりして真剣さがなく軽薄な様子
amadán バカ アイルランド語からの借用
amn't am not の省略形 スコットランド英語同様、一般英語では使わない am not の省略形
bold 行ないの悪い、わんぱくな The boy is very bold といえば、一般的な英語の bold 「勇敢な」の意味ではなく「わんぱく」の意味。アイルランド語の dána が語源
bowsie ワル、ゴロツキ 語源は不明
childer 子供 古英語の child の複数形属格が語源
chiseler 子供 語源は不明
cod バカ acting the codmaking a cod of himself のように使う
colleen 少女、若い女性 アイルランド語の cailín が語源
craic 楽しみ、娯楽 スコットランド英語や北部イングランドでも crack のスペルで使用(「ゴシップ、おしゃべり」の意味)。古英語の cracian がゲール語経由で現代アイルランド英語に借入
eejit バカ、まぬけ ラテン語 idiota を語源とする英語が語源で、スコットランド英語でも使用。英語の idiot に相当
gob 動物の口 ちなみに「人間の口」は beal。アイルランド語の gob が語源
gombeen 金貸し Gombeen man のように使う。アイルランド語の gaimbín が語源
grá 愛、愛好 He has a great grá for whiskey. 「彼はウイスキーが大好きだ」のように使う。アイルランド語からの借用
grinds 個人授業 古英語の grindan が語源
guards 警察 アイルランド語の Garda Síochána が語源
hames 混乱、困惑、めちゃくちゃ make a hames of の熟語で使用。オランダ語から入った中英語が語源
Jackeen ダブリン野郎、イギリスびいき 「ダブリン出身者」を意味するやや軽蔑的な言葉。また、1801年以降のイギリス統治時代にユニオンジャック(イギリス国旗)を支持した者、イギリス王室を支持する者ということから「自己主張の強い取るに足らない人間」という意味もある。John の愛称 Jack + アイルランド語の縮小辞 -ín
jaded 疲労した 中英語の jade が語源
lúdramán バカ アイルランド語からの借用
minerals ソフトドリンク mineral water から
mitch サボる 中英語が語源
runners スポーツシューズ tackies とも。ちなみにイギリス英語では trainers、アメリカ英語では sneakers
Sláinte 「乾杯!」 「健康を祝して!」、「乾杯!」の意味の間投詞。アイルランド語からの借用
Shoneen イギリスかぶれ イギリスのやり方を真似するアイルランド人を指す。John に相当するアイルランド語の名前 Seoin (英語では Sean)+ 縮小辞 -ín
sleeveen 信用できないずる賢い人間 アイルランド語の slíbhín が語源
soft day 曇り、どんよりした天気 小雨や霧でかすんだ様子を表す。アイルランド語の Lá bog が語源
The tea is wet; Wet the tea お茶を入れる wet the tea で「お茶を入れる」、The tea is wet で「お茶が入った」の意味
wagon/waggon イヤな女 中英語が語源
whisht 「シーッ!」(静かに!) スコットランドや北部イングランドでも使用。中英語が語源
yoke 物、物体、小物 古英語の geoc が語源