アイルランド英語の発音 (1)

       


Last update December 30, 2024

一般的な傾向と特徴

アイルランドは、厳密に言うと、「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」(The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)のメンバーでもある北アイルランド(Northern Ireland)と、メンバーではないアイルランド共和国(Republic of Ireland)とに分かれます。距離的に近いとはいえ、アイルランド英語の発音はイギリス英語 (RP) とは異なる特徴を持っています。また、北アイルランド英語は、むしろスコットランド英語に近いとも言われます。

ここでは、アイルランド英語として、アイルランド共和国で話されるヒベルノ・イングリッシュ(Hiberno-English)についてご紹介します。アイルランドでは、他の英語圏の国のような「その国の標準」となる英語が定められていません。たとえば、ダブリンではイギリス英語に近い特徴がみられますが、他の地域ではさまざまなバラツキがあります。ここでは、地域的なバリエーションも含めながら説明していきたいと思います。

では、さっそくアイルランド英語の発音の特徴を見てみましょう。

アイルランド英語の母音

 アイルランド英語の単母音

アイルランド英語の母音を口の大きさと舌の位置を軸にマッピングすると下図のようになります。


口の大きさと舌の位置
 狭母音(せまぼいん)close vowel   半狭母音(はんせまぼいん)close-mid vowel   半広母音(はんひろぼいん)open-mid vowel   広母音(ひろぼいん)open vowel   前舌母音(ぜんぜつぼいん)front vowel   中舌母音(ちゅうぜつぼいん)central vowel   後舌母音(こうぜつぼいん)back vowel 

マップ上の左右方向は、舌の前後の位置を表し、左から右にいくにつれて舌の位置が前→後ろへ移動します。マップの上下は、口の開け方の大小を表し、上から下にいくにつれて、口の開け方が大きくなります。それと同時に、舌の前後の位置も、上→下へと移動します(口を閉じたときは自然に舌が上の位置にあり、大きく開けたときは下の位置に来ます)。

たとえば、母音 /i:/ の発音は、口の開け方が狭く舌の位置が前にある状態で出てくる音であり、/o:/ は口の開け方は小さめ(半狭母音)で舌の位置が後ろのほうにある状態で発音される音ということになります。

このマッピングは、どこの国の英語も同じではなく微妙に異なります。それによって、各国の英語の音の違いが出てくるわけです。

 アイルランド英語の二重母音

二重母音 /e/* /ə(ɔ)ɪ/
単語例 face price
二重母音 /ɔ(o)ɪ/ /o(əʊ)/*
単語例 choice goat
二重母音 /a(ɛ)ʊ/ /ir/*
単語例 mouth near
二重母音 /er/* /(j)ur/*
単語例 square cure
* 厳密には二重母音とは言えませんが、他の英語圏との比較のため、ここに表記しています。

以上、アイルランド英語の母音について見てみましたが、少し補足をしておきます。

●「単母音マッピング」の中には、英和辞典でも見慣れない発音記号が含まれていますが、黒い文字でかっこ書きで、通常辞書などで使われている表記を記しています。

●たとえば、/ɑ//ɒ/ は、他の国の英語では区別されないこともあります。一般の辞書の表記も /ɑ/ のみになっています。