イギリス英語の特徴 (1)

       


Last update December 26, 2024

 RP はもう古い?

イギリスでは、「英語が人を表す」というくらい、その発音やイントネーション、文法などを含む speech(「話し方」)でその人の社会的ステータスや出身地域がわかるという伝統的な考え方があります。

ここでの「イギリス英語」とは、 England で話されているイギリスの英語ということで話を進めます。まずは、格調高いイギリス英語と言えばやはり、Received Pronunciation (RP) が挙げられます。

かって RP と言えば「教養」や高いステータスの証でもあり、社会的な成功をめざす人々はこぞって RP の習得をめざしたものです。「鉄の女」 (the Iron Lady) と呼ばれた元首相のマーガレット・サッチャー (Margaret Thatcher) さんも、出身地であるリンカンシャイアー (Lincolnshire) の方言から RP に切り換えた一人であり、サッカー選手のデビッド・ベッカム (David Beckham) さんも、ロンドンの下町言葉である「コックニー(Cockney) 訛り」の強い英語から「posh (上品で洗練された)」英語を話すようになっています。

しかし、その一方で、RP しか認めないという風潮も変わってきており、最近では、きちんと教育も受けて、もともと RP を話す人たちが、逆にコックニー英語に近い話し方をする傾向も出てきました。もはや、RP は古臭いイメージもあるようで、コックニーぽい話し方が「クール、カッコいい、今風」という風潮もあるようです。高級住宅街の店で高級服を身に付けた若い女性たちが、堂々とコックニー英語を話す光景も見られるようで、友達と外出するときはコックニー、家に帰ったら RP、ジーンズでお出かけのときは断然コックニーなのよね!というノリなのか(?)、さすがに英語本場のイングランド、言葉も時と場合に応じて「着替える」感覚なのかもしれません。

 コックニー英語(Cockney English

では、最近、特に若い人たちの間で「カッコいい」英語として市民権を得ようとしている「コックニー英語」についてみてみましょう。

その起源は、ロンドンのイースト・エンドにある街頭での物売りの人々が使っていた独特の言葉であり、伝統的には労働者階級の英語とみなされています。

その主な特徴をまとめてみると、次のようになります。

t」の音が落ちる

厳密には「落ちる」というより、そこで息の流れが遮られてしまうので聞えないわけですが、このような音を専門的には「声門破裂音」 (glottalization) と言います。たとえば「ボタン」 (button) が「ボッン」、「ライト」 (light) が「ライッ」となり、Not now は「ナッ・ナウ」、let's start は「レッ・スターッ」などとなります。「t」だけではなく「d」や「k」の音も落ちることがあり、Hyde Park 「ハイドパーク」は「ハイ・パーッ」のように聞こえます。

h」の音が落ちる(H-dropping)

「彼」 (he) は「イー」になり、「彼女」は (her) 「アー」になります。文字の読めない昔の人々は「h」を発音しないと学が無いとバカにされるので、とにかくなんでも母音で始まる単語には「h」をつけて発音してしまうこともあったとか。

母音の発音

わかりやすい例では、rainSpain などの「エイ」の発音が「アイ」になり、「ライン」、「スパイン」となったり、townbrown などの「アウ」の発音が「アー」になり、「タアーン」、「ブラーン」のように聞こえます。

[θ] の発音が「f」になる(Th-fronting)

thin 「細い」が「フィン」になり、thick 「太い」は「フィック」になります。同様に、[ð] の発音は「v」や「d」などになるため、they は「ダイ」、bother は「バヴァ」のように聞こえます。

my の代わりに me を使う

たとえば、That's my book you got here は At's me book you got 'ere (アッツ・ミー・ブック・ユーゴッ・エア)のように聞こえます。ただし、「彼の本ではなく私の」のように強調する場合は、me の代わりに my を使います。

韻を踏んだカラフルな表現を使う

オーストラリア英語にも影響を与えた韻を踏んだ表現(Cockney rhyming slangも大きな特徴のひとつです。ただし、発音も標準英語とは異なりますので、たとえば、lightlie が同じ発音となり韻を踏むことになります。

その他

その他の顕著な特徴として、ain't を使う、I didn't see nuffink (nothing) など、否定を繰り返す(意味は否定で二重否定ではない)表現を使う傾向も挙げられます。