ウェールズ英語の発音 (1)

       


Last update December 31, 2024

一般的な傾向と特徴

ウェールズ (Wales) はグレートブリテン島の西側に位置する国であり、「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」(The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)のメンバーです。アイルランド英語同様、ウェールズ英語の発音には「標準英語」というものが存在せず、地域ごとに異なります。たとえば、ウェールズの首都であるカーディフ(Cardiff)の英語はウェールズの他の地域とは異なり、むしろイギリス英語(RP)に近いのが特徴です。当然のことながら、イングランドとの国境に近い東部ではイングランドで話されている英語の影響が強く、西部に行くとその影響が弱まり、ウェールズ独特の特徴がより強くなります。

このウェールズ独特の特徴とは18世紀ごろまで母国語として話されていたウェールズ語(現在でも英語と併用して使われています)の影響であり、音節の末尾に来る母音の後の「r」のスペルを発音するロウティック (Rhotic) の発音をはじめ、ウェールズ語にない /z/ などの発音の不在、二重母音が区切って発音される、母音の発音において舌の位置が前にくる傾向があるといった特徴が挙げられます。

ウェールズ英語の母音

 ウェールズ英語の単母音

スコットランド英語の母音を口の大きさと舌の位置を軸にマッピングすると下図のようになります(地域によっても異なるため、あくまでも目安です)。


口の大きさと舌の位置
 狭母音(せまぼいん)close vowel   半狭母音(はんせまぼいん)close-mid vowel   半広母音(はんひろぼいん)open-mid vowel   広母音(ひろぼいん)open vowel   前舌母音(ぜんぜつぼいん)front vowel   中舌母音(ちゅうぜつぼいん)central vowel   後舌母音(こうぜつぼいん)back vowel 

マップ上の左右方向は、舌の前後の位置を表し、左から右にいくにつれて舌の位置が前→後ろへ移動します。マップの上下は、口の開け方の大小を表し、上から下にいくにつれて、口の開け方が大きくなります。それと同時に、舌の前後の位置も、上→下へと移動します(口を閉じたときは自然に舌が上の位置にあり、大きく開けたときは下の位置に来ます)。

たとえば、母音 /i:/ の発音は、口の開け方が狭く舌の位置が前にある状態で出てくる音であり、/o:/ は口の開け方は小さめ(半狭母音)で舌の位置が後ろのほうにある状態で発音される音ということになります。

このマッピングは、どこの国の英語も同じではなく微妙に異なります。それによって、各国の英語の音の違いが出てくるわけです。

 ウェールズ英語の二重母音

二重母音 /ei(e)/* /ai/
単語例 face price
二重母音 /ɒi/ /o(ou)/*
単語例 choice goat
二重母音 /au/ /ɪə/
単語例 mouth near
二重母音 /* /(j)ʊə/
単語例 square cure
* 厳密には二重母音とは言えませんが、他の英語圏との比較のため、ここに表記しています。

以上、ウェールズ英語の母音について見てみましたが、少し補足をしておきます。

●「単母音マッピング」の中には、英和辞典でも見慣れない発音記号が含まれていますが、黒い文字でかっこ書きで、通常辞書などで使われている表記を記しています。

●たとえば、/ɑ//ɒ/ は、アメリカ英語などでは区別されません。辞書の表記も /ɑ/ のみになっています。

●また、/ɜ/ も通常は /ə/ で表記されます。