イギリス英語の発音 (1)

       


Last update December 28, 2024

一般的な傾向と特徴

厳密な意味で「イギリス」というと「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」(the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)を指し、そのなかにはスコットランドやアイルランドも含まれます。しかし、それぞれの地域で話される英語は異なった特徴がありますので、ここでは、便宜上、「イギリス英語」というときには、ロンドンを中心とするイングランドで使われる英語という意味に定義したいと思います。

さて、イギリス英語の発音の中核となっているのが、Received Pronunciation (RP) と呼ばれる発音様式。もともとは、イギリス南東部の上流階級やオックスフォードやケンブリッジ大学で使用されていた発音をもとに定義されたもので、発音やアクセントそのものがその人の社会的ステイタスや教養を表すとされるイギリスでは、大変権威のある様式として考えられていました。BBC(英国放送協会:The British Broadcasting Corporation)でも RP が使われ、 RP で話す人は「それなりに教養がある(きちんと教育を受けた)人物である」とみなされていたのです。

近年になってからは、メディアの発達やイギリスでの社会的階級間の線引きもゆるやかになったことで、RP=エリートの発音という図式も壊れてきています。また、話し言葉は絶えず変化しつづけるもので、RP 自身も変化し、今では純粋な RP を話す人はイギリスのわずか3パーセント程度だそうです。

とはいえ、「模範的な標準イギリス発音」としての重要性を失ったわけではなく、多くの国の英語教育に採用されています。よって、ここでも RP を中心に説明を進めていきます。

イギリス英語の母音

 イギリス英語の単母音

イギリス英語の母音を口の大きさと舌の位置を軸にマッピングすると下図のようになります。

口の大きさと舌の位置
 狭母音(せまぼいん)close vowel   半狭母音(はんせまぼいん)close-mid vowel   半広母音(はんひろぼいん)open-mid vowel   広母音(ひろぼいん)open vowel   前舌母音(ぜんぜつぼいん)front vowel   中舌母音(ちゅうぜつぼいん)central vowel   後舌母音(こうぜつぼいん)back vowel 

マップ上の左右方向は、舌の前後の位置を表し、左から右にいくにつれて舌の位置が前→後ろへ移動します。マップの上下は、口の開け方の大小を表し、上から下にいくにつれて、口の開け方が大きくなります。それと同時に、舌の前後の位置も、上→下へと移動します(口を閉じたときは自然に舌が上の位置にあり、大きく開けたときは下の位置に来ます)。

たとえば、母音 /i:/ の発音は、口の開け方が狭く舌の位置が前にある状態で出てくる音であり、/ɔ:/ は口の開け方は小さめ(半狭母音)で舌の位置が後ろのほうにある状態で発音される音ということになります。

このマッピングは、どこの国の英語も同じではなく微妙に異なります。それによって、各国の英語の音の違いが出てくるわけです。

 イギリス英語の二重母音

二重母音 /e(ɛ)ɪ/ /aɪ/
単語例 face price
二重母音 /ɔɪ/ /əʊ/
単語例 choice goat
二重母音 /aʊ/ /ɪə/
単語例 mouth near
二重母音 /ɛə/ /(j)ɔ(ʊə)/
単語例 square cure

以上、イギリス英語の母音について見てみましたが、少し補足をしておきます。

●「単母音マッピング」の中には、英和辞典でも見慣れない発音記号が含まれていますが、黒い文字でかっこ書きで、通常辞書などで使われている表記を記しています。

●たとえば、/ɑ//ɒ/ は、イギリスでは区別される音ですが、アメリカ英語などでは区別されません。辞書の表記も /ɑ/ のみになっています。

●また、/ɜ/ も通常は /ə/ で表記されます。